2014年8月15日:夢前からの報告          ―産廃処分場計画を問う 理事・姫路支部長 山本弘

建設予定地の上部の山から問題点を話す(一番左、2013年8月3日)
建設予定地の上部の山から問題点を話す(一番左、2013年8月3日)

1.    寝耳に水
 7年ほど前だった。私たちが暮らす背後の山に「産業廃棄物の最終処分場計画」が進んでいることを知った。おまけに姫路市の事務手続きは「書類があと一枚」の段階だった。
 ふるさと夢前は、四方を山に囲まれ緑豊かで、夢前川が雪彦山から播磨灘へと下り、その清らかな流れが美味しい農産物を育む。地域文化もしっかり受け継がれ、姫路駅まで35分と地の利もいい。そんな環境に恵まれた何一つ不自由のない地域に、なぜ、産廃処分場が出来るのか。おまけに計画地は夢前川に接している。水質が汚染されれば下流域の人々暮らしはどうなるのか。大型ダンプが走り回ったら子供たちはと、眠れぬ夜が続いた。
 ふと、ある思いが浮かんだ。「私は何をしているのだ。子供たちと自然にふれ、その大切さを語ってきたのは、何だったのか。すべてこの日のためにあったのでは」と。

夢前川の自然を語る(左、2013年8月27日)
夢前川の自然を語る(左、2013年8月27日)

2.人のつながりが力に
 2012年1月、運動を起こした。5月、地域の皆さんと署名運動に入り、多くの自治会が、団体が奔走された。5月に署名活動を入り、2年後の2014年5月1日、兵庫県知事、姫路市長宛に13万1439筆の反対署名を届けた。

 ちょうど建設か、踏みとどまれるかという時に、当会、兵庫県自然保護協会も現地調査を重ねた上で、計画の問題点を指摘した意見書を兵庫県知事、姫路市長宛に出された。「外からの力」が新たに加わった。意見書にとどまらず、夢前川の生物調査や源流から河口までを歩く夢前川ウオークも地域の皆さんの共感を呼んだ。 

 現在、計画はストップしている。今後どのような展開になるのかは未知数。側面支援をしてくださった協会の皆様に、まずは、心からお礼を申し上げます。そして、今後とも絶えざる注視をよろしくお願いいたします。

2014年7月12日:三宮の兵庫県自然保護協会事務所での発送作業
2014年7月12日:三宮の兵庫県自然保護協会事務所での発送作業

山本弘
yamamoto hiroshi
古くからの兵庫県自然保護
協会・姫路支部で活動。
郷土の植物を中心に、
さまざま生物に精通する。
観察会は「町づくり、
人づくりの場」だと捉える。
五感を活用し、まず良く見て、
土や幹を触り、臭いをかぐ。
実を味わい、

樹幹に耳を当てて風の音を聞く。

(撮影:三木進)

夢前町の「産廃処分場計画」と里山保全

                      理事長 権藤眞禎

 

 姫路市夢前町に「産業廃棄物最終処分場」が計画され、環境破壊が懸念されています。当協会の取り組みについては、調査部会の報告をお読みください。ここでは現地のような里山の価値について考えてみました。

一般に里山とは、①豊かな緑量の「森」がある②地域の気候や土壌の条件に適応していることから一定の抵抗性がある③豊かな生態系を形成し、種の保全に役立っている④炭酸ガスの吸収、大気の浄化、都市部の気温の調節、保土、保水環境保全等の機能がある⑤持続的な利用が可能な資源としての可能性がある⑥リクリエーションや自然回帰、自然観察、環境教育の場として、都市近郊のスポットでもある。

 86日現在、建設予定地周辺では、当協会の大沼弘一理事のグループや当会理事らによって、兵庫県版レッドデータブックに挙げられたコウモリ1種、鳥類6種、爬虫類1種、オオサンショウウオやモリアオガエルなど両生類9種、魚類5種、昆虫類2種、クモ類1種、植物ではクモラン、コヤスノキなどが確認されています。まさに、保全されるべき里山なのです。

産業廃棄物は各地で問題を起こし、地域住民を悩ませています。法的には「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」で規制されていますが、夢前町の場合も豊かな里山を破壊し、浸出物が長期にわたって河川を汚染、流域住民の飲料水源に影響を与える恐れがあるのでなないかと危惧しています。

 地元の「産業廃棄物処分場建設反対のあゆみ」には「夢前町の自然を守る会」の山本弘会長をはじめ皆様方の活動で730日現在、126965筆の反対署名が県や市に提出されています。第一線で住民の健康を守る地域医師会496人の意見書も提出されているとのことです。

当協会は生物調査を継続し、地域の皆様と力を合わせて貴重な生物の保全活動を行いたいと考えております。そして、本来の目的である豊かな自然を守り、孫子の代まで引き継げるよう努力します。姫路支部はじめ、会員の皆様のいっそうのご協力を、心からお願い申し上げます。

その第一弾として、827日に「きれいな夢前川!どんな生き物がいるのかな?」と題し、子供たちを対象に、川遊びと生物調査を行います。自然の大切さや保護について考え、夏休みの自由研究にも活用してもらえれば幸いです。200人ほどのこども達が参加する予定です。

2013年7月3日(水):第1次現地合同調査報告                            オオサンショウウオ、貴重種、破砕帯?

                               調査部会           

経緯

 姫路市夢前町に「安定型産業廃棄物最終処分場」の建設計画が持ち上がり、「水質汚染等、環境破壊につながる」として反対運動が続いている。当会姫路支部の正会員、山本弘さんも「夢前町の自然を愛する会」の会長として、地元の皆さんと共に東奔西走されている。すでに、12万人分の署名を県と市に提出。469人の医師、歯科医師からも意見書が出されている。

 こうした中、夢前町出身で当会常務理事の橋本敏明さんからのアピールで、福岡誠行・前理事長の時代から準備が進み、今年6月、権藤眞禎理事長による新体制発足を機に具体化した。

 6月の理事会に山本さんらを迎え、話を伺った。そして「初めに反対ありきではなく、現地調査をした上で、当会として判断をする」ことを確認した。

 

 

 

現地を調査するメンバー
現地を調査するメンバー

現地調査

 現地とスタッフの調整など、橋本常務理事が周到な事前準備をし、73日(水)午前、夢前川を挟んで計画地の対岸に、権藤理事長(動物)、福岡前理事長(植物)、谷口誠司副理事長(鳥類)、三木進副理事長(昆虫)、大沼弘一理事(オオサンショウウオ)、川上徳子理事(オオサンショウウオ)、橋本常務理事(調整)、さらに大沼理事率いる調査メンバー3人を加え計10人が集合。この辺りの植物にも詳しい元高校校長の橋本光政さんも合流して、調査チームが結成された。

 地元からは、山本さん、姫路市議2人、両生類、昆虫等を地元で長年研究されている元中学校教諭の谷口正治さんらが案内に立たれた。

 

最終処分場が計画されている山
最終処分場が計画されている山

 予定地は、すでに業者によって買収されているため、主に周辺部を、幅2kmに渡って調査。朝一番に権藤理事長、谷口副理事長、大沼理事らが、建設予定地の南側を調査。午後からは、夢前川に沿って予定地の東側を攻めた。

 建設予定地は、予想以上に急峻で、すり鉢状の地形の一部がV字形に切れ込み、中央に小河川が流れていた。杉などの植林もあるが、コナラなど広葉樹林も遠望できた。そして、予定地の河川が夢前川に直接流入していることに、まず驚いた。

 

車座になって
車座になって

情報交換

 降水確率60%にも関わらず、何とか天気はもったが、午後2時頃より、激しい雷雨となり、公民館での意見交換会に主力を注いだ。

長年、故郷の自然を見つめてきた山本さんや谷口さんらから、生物種について貴重な情報をいただいた。

山本さんは「兵庫県自然保護協会の会員として、ずっと子供たちに、その大切さを語ってきたが、その意味が今、はっきり分かった気がする」と言われ、お集まりいただいた地元の方は「バスの便も減り、何もない所だと思っていたが、運動を通して素晴らしい自然が残っていることに気づいた。何としても子供たちに伝えたい」と話された。

 席上、大沼理事らは、すでに春から周辺地域で事前調査を進め、レッドデータブックに記載された多くの種を確認していることを明らかにした。開発予定地が、多様な生物が生息する自然度の高い地域である可能性が出てきた。当会のメンバーが現地入りして、サンプルを収集し、写真撮影を進めることを決めた。

 

 

 

オオサンショウウオの「夢ちゃん」
オオサンショウウオの「夢ちゃん」

オオサンショウウオの出現

 合同調査の準備と並行して、「特別天然記念物オオサンショウウオ出現」の情報があった。

 地元の人が5月31日、建設計画用地近くの夢前川支流で、大きな個体を発見。連絡を受けた姫路市立水族館の担当者が駆け付けたところ、かなり弱っていたため、同館で保護。体長1.13mの大物で、アジの切り身などを与えたところ、皮膚の状態も改善し、体重も10.6㎏と順調に増えた。

折しも合同調査の日に、母なる川に返されることになった。

 多くの人が見守る中、オオサンショウウオの専門家である大沼さんの手から流れに返された。水族館で個体識別用のチップが埋め込まれ、現在、追跡調査が行われている。

夢前川水系のオオサンショウウオについては、「兵庫県におけるオオサンショウウオの分布情報」(人と自然、2007)がある。

 県内607件の内、14件が夢前川水系で、今回同様、建設予定地近くでは、前之庄で1977年と1997614日に、神種で1999530日、そして杉の内でも19986月に確認されている。確認時期が、今回同様5月下旬から6月に集中しているのも興味深い。

 南部の広畑区富士町、河口付近での確認例もある。県内で最古の記録は、1937年、夢前町の熊部であり、古くからこの水系に広く生息していたことをうかがわせる。

 

 

 

放流の打ち合わせ
放流の打ち合わせ
川へ運ばれる「夢ちゃん」
川へ運ばれる「夢ちゃん」
放流された「夢ちゃん」
放流された「夢ちゃん」

夢を現実に

 私たちは放流に際し、オオサンショウウオに「夢ちゃん」と名付けた。夢前川流域の自然と人々の文化的な豊かな暮らしが、いつまでも守られるようにと、そのシンボルに夢を託した。

思うに、産業を振興し、私たちが豊かに暮らせば、自ずと廃棄物が出てくる。今や、全国の最終処分場は、ひっ迫し、その一方で、不法投棄が横行する。循環型社会システムの形成が叫ばれ、自動車リサイクル法など法体系は進んできたが、まだまだ不十分だ。

その間に、いつも地方が泣かされてきた。反対か賛成かで、静かで豊かだったコミュニティーが二分された例も多い。その心労に思いを寄せてみよう。

産廃をどうするのか。企業は元より、国、県、地元市町村の最大の行政課題であるはずだ。 

一歩踏み込んだ対応を願いながら、兵庫県自然保護協会の調査部会は、83日に第2回合同調査を実施、さらに山崎断層との関係を調べるために、第3回合同調査を行い、建設予定地周辺の現状把握を進めている。

 

2013年8月3日(水):第二次現地調査

調査しながら山を登る
調査しながら山を登る

            

現地調査                        調査部会

  姫路市夢前町の「安定型産業廃棄物最終処分場」建設計画に対し、「現地調査をした上で判断する」と基本方針を決めた当協会では、73日(水)に続き、83日(土)にも第二次合同調査を実施した。権藤眞禎理事長(動物)、福岡誠行前理事長(植物)、谷口誠司(鳥類)、三木進(昆虫)の両副理事長、小倉滋理事(生き物全般)、工義尚理事(生き物全般)、大沼弘一理事(オオサンショウウオ)、川上徳子理事(オオサンショウウオ)、大沼調査グループの2人、橋本敏明常務理事(調整)の11人が参加し、前回同様、元高校校長の橋本光政さん(植物)も合流。地元からは、当会姫路支部の正会員で「夢前町の自然を愛する会」代表の山本弘さんと元中学校教員の谷口正治さんら3人が先導され、予定地背後の山頂を目指した。

 道中、「国蝶」で環境省のレッドデータブック・準絶滅危惧種のオオムラサキが舞い、自然の豊かさを証明してくれた。

予定地の向こうに町が広がる
予定地の向こうに町が広がる

 山頂に立つと、処分地が眼下に迫り、改めてすり鉢状の地形が明らかに。そして、下からは見えなかったが、いかに対岸の集落や学校に近いかが見てとれた。

 ふもとでは、クモラン、コヤスノキなどを確認し、多様な生物が今なお生息していることを全員の足で確かめた。

 

2013年8月27日(水):夢前川の生き物調べ

林間学校の始まり
林間学校の始まり

                            調査部会

 夢前との強いつながりを願う第一歩は、「きれいな夢前川! どんな生き物がいるのかな?」をテーマにした生物調査だった。827日(水)朝から、予定地の下流域で実施。流域の80人近い小学生と多くの父母が参加した。「夢前町の自然を愛する会」主催で、当会は共催。JA兵庫西、夢前町連合自治会が協賛、姫路市と中播磨県民局の後援を得た。

オオサンショウウオの夢ちゃんの解説も
オオサンショウウオの夢ちゃんの解説も

 まず、紙芝居やパネル・写真などを使って解説した後、川遊びをしながら、魚類やカエル、エビ、貝、水生昆虫などを捕まえた。

 数人ずつの班に分かれ、川一杯に広がって生き物を追う子供たちの姿は壮観だった。

 

網を片手に懸命に!
網を片手に懸命に!

 川の調査は、「姫路市自然観察の森」の井内ゆみさんがリード、当会のメンバーと一緒に指導に当たった。

何がとれたかな
何がとれたかな

 やがて、収穫をパレットに並べて解説。シマドジョウなどが見られたが、大小さまざまなスクミリンゴガイもあり、外来生物の問題を考えるきっかけとなった。

 

さあ、じっくり観察しよう
さあ、じっくり観察しよう

 最後に、子供たちは観察ノートを仕上げ、夏休みの宿題をひとつ片づけた。

 お昼には、心のこもったカレーが振る舞われ、参加者全員で、夢前川がいつまでも、美しく、自然環境が保全されることを願って会を終えた。

 

 早くも、「ぜひ、来年も」の声があがっている。夢前の産廃問題に関わる際、権藤理事長が願った「第二のふるさとに」の思いは、ほんの少しだが実現した。

 

2013年9月2日(月):県民局、姫路市に意見書提出

                             調査部会

 合同調査は2回だけだが、昨年から、大沼理事のグループが先行して、10回に渡って動植物を調べている。多くの希少種が含まれ、意見書を提出する原動力となった。プロフェッショナルな仕事ぶりであった。調査部会で、意見書の素案を練ったが、その際に地質の専門家で現地をよく知る觜本格理事が、山崎断層の危険性を具体的に指摘した。

「山崎断層帯は、過去に大地震を起こした明確な活断層で、M8級の地震が発生した場合、予定地を含む近隣地域で多くの被害がでると予想される。急峻で風化の進んだ地形と地質の特性から、崖崩れや山体崩壊が起こり、亀裂の発生が予想される。有害物質が漏出する可能性も高く、周辺や下流域に影響を与えることが十分考えられる。また、予定地の地形と地質の特性を考慮すれば、表土や植生の改変があれば、地盤が不安定になり、大雨による土石流や崖崩れの発生の危険性が高まる」という指摘だった。

どう考えても予定地は、「不適切」であった。

私たちの“手づくり”意見書は、92日午後、権藤眞禎理事長と橋本敏明常務理事によって、中播磨県民局と姫路市に提出された。

意見書提出という最初のミッションは完了したが、予定地周辺の調査は、これからも続くし、大沼理事らによって、あのオオサンショウウオ「夢ちゃん」のその後も分かっている。渇水のため、長らく放流現場近くにいたが、後の大雨で新天地へとのっそり動き出したという。

 

姫路市夢前町の                  安定型産業廃棄物処分場建設計画に対する意見書

 

201392

兵庫県知事 井戸 敏三 様

姫路市長  石見 利勝 様

 

 

姫路市夢前町・安定型産業廃棄物処分場建設計画に対する

自然環境保護等に関する意見書

 

一般社団法人 兵庫県自然保護協会

理事長 権藤 眞禎

はじめに

 

 兵庫県姫路市夢前町前之庄において、「安定型産業廃棄物最終処分場」の建設計画が進められています。兵庫県自然保護協会は、当地域と下流域の人々の暮らし、自然環境等を鑑み、計画地域周辺で調査を行った上で、山崎断層帯等、地質・地形の特性を踏まえ、住民生活ならびに自然環境への影響を懸念し、意見書を提出します。

 

1 自然環境の現状

 

建設予定地は、西播磨丘陵県立自然公園に近く、優れた自然環境が保全され、環境省及び兵庫県版のレッドデータブックに掲載される、貴重な生物が数多く生息しています。 

まず、夢前川に依存する魚類等については、兵庫県県土整備部土木局河川計画室による「ひょうごの川・自然環境アトラス WEB版 夢前川水系編」(2009年)に詳しく、魚類は53種分布し、県内14の主な河川の内、千種川、加古川、市川、武庫川と並んでトップクラスの種類数を誇っています。中流部から上流部にかけては、多くの底生動物も記録されています。

以下は、十数度にわたる私たちの荒神山地区周辺調査の結果について報告します。

魚類では、激減が叫ばれ環境省絶滅危惧IB類(EN)のウナギをはじめ、同絶滅危惧Ⅱ類(VU)で兵庫県版レッドデータブック・Bランクのアカザ、環境省絶滅危惧IB類(EN)でBランクのオヤニラミ、カジカ、県版Bランクのナガレホトケドジョウも確認しています。

両生類では、県版Bランクのモリアオガエル、Cランクのニホンヒキガエル、タゴガエル、トノサマガエル、ツチガエル、シュレーゲルアオガエル、カジカガエルを、それぞれ確認。そして環境省の絶滅危惧Ⅱ類(VU)、県版Bランクで、特別天然記念物のオオサンショウウオが地元の人によって、今年531日に予定地近くで発見さています。姫路市立水族館で一時保護され、73日に再放流されましたが、私たちは「夢ちゃん」と名付け、追跡調査を行い、その後も流域に生息していることが分かっています。

 夢前川水系のオオサンショウウオについては、「兵庫県におけるオオサンショウウオの分布情報」(人と自然、2007)があります。県内607件の内、14件が夢前川水系での記録。建設予定地近くでは、前之庄で1977年と1997614日に、神種で1999530日、そして杉の内でも19986月に確認されています。南部の広畑区富士町、河口付近での確認例もあります。県内最古の記録も、1937年、夢前町の熊部であり、古くからこの水系に広く生息していたことを立証しています。

 小型のサンショウウオでは、絶滅危惧Ⅱ類(VU)で、県版Bランクのカスミサンショウウオも生息しています。

 次に鳥類では、環境省の準絶滅危惧種(NT)で県版Cランクのハイタカをはじめ、県版Bランクのノスリ、Cランクのアオゲラ、イソシギ、要注目種で、「清流の宝石」と呼ばれるカワセミなどが生息。

 植物では、準絶滅危惧種(NT)で県版Cランクのコヤスノキ、さらにBランクのクモランを確認しました。クモランは、葉を持たず、四方八方に張り出した気根(空中にある根)に葉緑素があり、葉に代わって根が光合成をする大変特異な生き方をしています。希少種であるとともに、生物多様性の象徴のような種です。

昆虫では、準絶滅危惧種(NT)では、県版Bランクのキマダラモドキ、Cランクの国蝶オオムラサキ、そしてCランクのクツワムシが分布しています。

 クモ類では、Cランクのキンヨウグモが見つかっています。

 以上の調査結果から、産廃処分場予定地周辺は、「ひょうごの川・自然環境アトラス WEB版 夢前川水系編」(県土整備部)が指摘する通りの豊かな生物種が河川を中心に温存され、周辺の山地には、自然度の高い環境が保たれていることを裏付けています。

生物の調査、確認は、今後も継続して行っていきます。

※一連の調査で確認した生物種は、別紙に添付します。

 

2 地質・地形からの懸念

 

建設予定の『安定型』処分場は、「廃プラスチック等5品目、化学変化が起こらない物質を素埋めする」ものですが、5品目以外の物質を完全に分別することは難しいとされ、5品目以外の有害物質が混入して、雨水などに溶け出し、地下水や夢前川を汚染する可能性が指摘されています。全国で重大な事故や社会、自然環境への影響や環境汚染が生じているのも、また事実です。

ところが、予定地のすぐ北には、山崎断層帯の主断層である安富断層が、南にも暮坂峠断層が走っています。予定地には断層破砕帯の存在を示唆する「ケルンコルン」と呼ばれる断層地形も多く見つかっています。山崎断層帯は868年の播磨国地震など、過去に大地震を起こした、履歴の明確な活断層です。この断層が活動した場合、M8級の地震が発生し、予定地を含む近隣地域で震度7~震度6強・6弱の地震動により、多くの被害がでると予想されています。予定地では、急峻で風化の進んだ地形と地質の特性から、多くの場所で崖崩れや山体崩壊が起こり、亀裂の発生が予想されます。その場合は、有害物質が漏出する可能性も高く、周辺や下流域に影響を与えることが十分考えられます。

大地震が発生しない場合においても、予定地の地形と地質の特性を考慮すれば、表土や植生の改変があれば、地盤の不安定性が増大し、大雨による土石流や崖崩れの発生の危険性が高まると考えざるを得ません。

このように地質・地形面から見ても、不適切な場所であることが分かります。

 

3 地域社会への影響

 

「安定型産業廃棄物最終処分場」は、計画段階で、すでに地域社会に大きな影響を与えています。夢前川流域は、歴史的に河川を中心に物流で栄え、優れた自然環境の下に、郷土色豊かな伝統文化を育んできました。近年は中国自動車道・福崎インター等によって、大阪、阪神間とも結ばれ、「姫路市の奥座敷」として、都市住民との交流も進んでいます。利便性に加えて、地域文化と豊かな自然環境を誇り、将来のさまざまな可能性がある地域です。しかし今回、コミュニィティーは、大きく二分され、どちらの立場の皆様にとっても、特に地域リーダーにとって、心労の多い日々が続いています。

姫路市には、日本が世界に誇る姫路城があります。文化は自然が豊かだからこそ、誇れるのです。市内を貫流する揖保川、市川、夢前川などが、我々にとって、さらに多くの生物種にとっての「命の水」を供給しています。

どうか、母なる夢前の流れの重要性を十二分に考慮され、未来の子供たちにとって、負の遺産とならないよう、配慮くださいますよう、お願い申し上げます。

以上、1、2、3項目について、文書による回答をよろしくお願い申し上げます。

 

2013年10月20日(日):「置塩城祭」に参加して

テンジブース
テンジブース

         理事長 権藤 眞禎

1020日(日)、伝統ある「置塩城祭」会場に、当協会と「夢前町の自然を愛する会」との展示ブースをいただけることになりました。夢前町で民間の産業廃棄物処理業者が処分地として予定している場所での調査については、これまでに報告しておりますが、今回の展示ブースには夢前川流域の自然環境や動植物の写真を展示し、地域の皆さんにご覧頂きました。

 

缶バッチ
缶バッチ

 オオサンショウウオについて、子供たちにもより関心を持っていただけるようにと、イラストの入った「缶バッジ」を作ってもらいました。  

 

缶バッチが人気
缶バッチが人気

 会場では、舞台での歌や踊りがあり、戦国武将・黒田官兵衛を称える見事な歌や、武将の井出達をした保存会の皆さんの演武など、大いに盛り上がりました。

 

恒例の城跡登山は、残念ながら雨のため中止になり、公民館で姫路市文化財課が遺跡発掘に伴う新知見などを話されました。戦国武将・赤松円心の築城とされ、ここから勢力を伸ばしたなど歴史の勉強をさせていただきました。

 

 講座の最後に、夢前町の自然を愛する会の山本弘会長が産業廃棄物処理場を持ち込ませないために努力された、これまでの経過を説明され、その上で、住民一丸となっての協力を要請されました。兵庫県自然保護協会を代表して私の発言を求められたので、地域の皆さま方に、これまでの調査などを報告することができました。

 

2013年12月10日(火):夢前、東北、そして兵庫へ

被災した車の山=陸前高田市
被災した車の山=陸前高田市

災害列島の自然保護

―新たな理念を求めて―

副理事長 三木進

 高度成長期に、経済至上主義によって公害問題が起こり、乱開発に対し自然保護運動が繰り広げられた。その渦中を、取材者として過ごした。退職後、ご縁をいただき、運動側の一人となった時、何か違和感があった。「自然保護運動など流行らない」「今日的ではない」という感覚だった。

 産業構造は変わり、景気は後退し、開発計画も頓挫した。その一方で法的な整備も進み、度を越した自然破壊は減ったと考えていたからだ。

 だが、姫路市の産業廃棄物最終処分場計画や県内のいくつかの現場に立ち会っているうちに、ある思いが浮かび上がった。「災害復旧工事に伴う自然改変、自然破壊に対しては、何ら有効な手段を持たない」―という実感だった。そして、何らかのルールを作らなくては、その構築にこそ、自然保護協会の今日的な意義があると思い至ったのだ。

一般に、自然破壊を食い止める最も重要な要素は、そこに「貴重な生物種やそれらを育む環境がある」と声を上げる人々である。次に、その保全活動を左右し、結果に大きな影響を与えるのが、地域住民である。

姫路の産廃を例に挙げると、長年、さまざまな生物を調査し、子供たちにその大切さを語ってきた人々がいた。彼らが声を上げ、住民たちが続き、運動は実質的な力を持った。

 では、災害復旧工事の場合はどうだろう。工事区域に極めて重要な生物種が分布しているという指摘があったとする。そこが、いくら保護地域であっても、災害で辛酸をなめた地域住民は当然のこととして、工事に賛成し、一日も早い完成を望む。幸い協議の場が設けられても、普段、生物多様性を声高に掲げる“権威”ですら、大人の対応を取る。人々の暮らしが優先される。現状では、しごく当たり前のことなのだ。それでいいのだろうか。

端的な例が、東日本大震災に伴う災害復旧工事である。国を挙げて、国民こぞって一日も早い工事の完成を願う中、「復旧工事という名の自然改変、自然破壊」を指摘する勇気ある人間がいる。彼は、震災以降一年間、山形県の自宅を離れ、福島から青森の海岸線を踏査し、砂浜、防風林、背後の湿地を回り、自然がいかに破壊され、また甦り始めたかを記録した。食料も水もガソリンも、そこに近づく道もない時点であった。そして、回復し始めた昆虫や植物などの貴重な生物が、有無を言わせぬ復旧工事で壊滅的な打撃を受ける現実があった。次の一年は、工事を担当する各省庁に改善を求めることに費やした。「現状復旧ではなく、新たな開発だ」と彼は指摘する。

 

被災標本の修復
被災標本の修復

 例えば海浜昆虫や植物が回復し始めた砂浜には、工事用の道路が出来た。縦割り行政によって、国交省は堤防建設を、林野庁は海岸林の盛り土造成などを計画、農水省は農地の復旧を進める。彼は「堤防の位置を内陸側に引き下げるなど、根本的な土地利用までをも含めた全体の話ができる可能性は、なかったのだろうか」と嘆く。国の方針を決定する「復興構想会議」が唯一の機会だったが、そこに自然環境の専門家は一人もいなかったという。                  

彼とは、兵庫県出身の永幡嘉之さんだ。当会理事の小倉滋さんの教え子である。私は、採集を共にしたこともあり、震災から3カ月後に、佐用町昆虫館を運営するNPO法人「こどもとむしの会」の一員として東北へ行った。陸前高田市立博物館の被災昆虫標本を修復したり、会の仲間で集めた支援物資を届けたりと、延べ2週間、被災地や盛岡で過ごした。

 その際に、永幡さんには現地の現状や被災者の心情から、被災地に入るルート、宿、レンタカーの有無までを丁寧に教えてもらった。今思えば、一番大変な時期だったのだろう。電話の声は、何か重いものを背負った、修行僧のようであった。

彼は、回復し始めた小さな命が、再び甦ることのない災害復旧工事に伴う自然破壊に、声を挙げた。足で調べた現状を「巨大津波は生態系をどう変えたか―生き物たちの東日本大震災」(20124月発行.講談社ブルーブックス)にまとめた。

 昆虫の研究者やアマチュアの発表の場である月刊誌「月刊むし」には、20129月から、「東北の自然はどこにむかうのか」と題して、先月までに、5回の連載を続けている。

 今回は、その連載から引用させてもらった。

 瓦礫を埋めて堤防代わりにし盛り土して、広葉樹を植栽するというアイデアについて、 こう書いている。

「実際に盛り土のなかに埋められる瓦礫は木材などの有機物ではなく、コンクリートやアスファルトの砕石など不燃性のものに限定されたので、海岸林の広域は分解しない廃棄物の埋め立て処分場にもなった」。多くの命が甦りつつあった海岸の森は「瓦礫を埋めた造成地へと変貌した」。さらに「『森づくり』と銘打ちさえすれば、いかなる大開発でも支持を受けてしまう。現状認識を伴わないままに、今も圧倒的な世論の支持を得ているところに、この社会の危うさが端的に表れていたと言えるだろう」と。

そして、こう結んでいる。「生態系とは、本来自己修復しながら回復してゆくものだ。津波跡地でも、劇的なまでに回復していた。しかし、現状では社会がそれを許容しなかった。自然環境の自己修復による回復を無視し、復旧事業はあたかも、機械の部品を替えるかのように、そこにあるものをすべて壊してから別のものに付け替えて行った。これが現在の日本の社会のあり方だということを認めたうえで、いかに今後の社会の仕組みを変えてゆくかということが、復旧という名の土木事業であまりに多くの自然環境を失った我々に突き付けられた大きな課題だろう」と。

 それにしても永幡さんは、どれほど大きな反発や圧力の中で、孤独の中で、自身の思いを声にしてきたのだろうか。復旧、復興がすべてに優先する中で、彼が行動できたのは、世界のブナ林をそこで暮らす人々とともに研究し、人と自然のありようを、常に考えてきたからだろう。震災前から東北の海岸や河口を踏査し、その掛け替えのない素晴らしさを知っていたからだろう。彼と同様に海岸林の鳥類の保護に立ち上がった人も、干潟の保全に奔走する人もいる。